法人の保険加入による節税という話をよく聞きますが、どういう仕組みなのでしょうか?

お答えします。

単純化したモデルでの概略

節税_金子_税理士
保険には、様々なタイプがあり、最も提案を受ける事が多いのが、被保険者(社長など)、受取人を会社にした生命保険で、半額損金・半額資産計上となり、解約返戻金があるタイプ(長期平準定期保険)です。
解約時に、社長の退職金やその他大きな損失が発生したときの損金と相殺すれば税負担は発生しないと説明を受けます。

ここでは説明を分かりやすくするため前提を以下の様に単純化します。
・保険料の全額が損金(経費)になる
・解約返戻金は戻り率が高い時期で解約すれば払込保険料と同程度の戻りがある
・法人税実効税率は所得に応じておおよそ25%-37%ですが、30%とする

実際どれだけ節税又は効果があるのか?

①保険料支払時の節税効果
 保険料を年間100とすると支払時の節税効果は実効税率30%とすると30になります。

②積立効率
 退職金積立の観点から、保険に加入せず税負担後のお金を積立ていく場合に比べ、保険加入による税負担前の金額を積み立てた方が、良いと言えます。
例)①保険に加入せず税負担後で10年積み立てた場合 保険料100×(1-30%)×10年=700
  ②保険加入で税負担をせずに積み立てた場合 保険料100×10年=1,000

③解約返戻金の戻りが高い時期に解約し、社長の退職や大きな損失が発生せずに、保険金収入を相殺できなかったらどうなるの
 でしょうか?

 返戻金は益金ですからそのまま課税されます。税負担は、解約返戻金100%とすると×法人税実効税率ですので、①の計算で30%効果があったとしてもほぼ相殺されます。

④そもそも保険の効果を考えるうえで、退職金による税の低減効果を含めて考えて良いのか?
 一般的な説明では、解約返戻金の益金と退職金の損金を相殺して税負担は発生しないとしていますが、税負担が発生しないのは事実ですが、保険の効果を考える上では、全く別次元の話です。
 当初は保険料支払いによる節税効果を説明しておきながら、最後の部分は退職金で税負担は発生しないと論点がすり替わっています。
株で1億円儲かったけど、退職金と相殺するので税負担は発生しないと言っているのと似たようなものです。
 もうちょっと現実的な例で説明すると、無利息預金を退職金に充当した場合、税の低減効果は退職金額×実効税率になります。無利息預金の効果ではなく、退職金の効果です。保険の解約返戻金を退職金に充当する場合も同様で、保険の効果を考える上で、退職金の税の低減効果は切り離して考える必要があります。
 結論として、保険の効果を考える上では、社長の退職や大きな損失が発生せずに、保険金収入を相殺できないとして計算しなければならないという事になります。
 ですから③の退職金と相殺できないというのが当たり前のシュミレーションで、結局のところ節税効果はほぼないと考えてよいと思います。
また解約返戻金が高い時期に解約というのが最高のパターンで、解約返戻金が低い時期に解約すれば、保険の効果はマイナスとなります。

重要な補足

保険加入による儲けや節税効果は大したことがないという事がお分かりいただいたと思いますが、そもそも保険の本来の役割は節税商品ではなく保険機能だという事です。万が一の時に保障が受けられるという事です。
上記①、②の計算では保険の効用を得るためのコストは加味していません。要するにタダで保険機能を受けれるという前提での計算です。

まとめ

・保険加入による節税効果、儲けはほとんどないか、知れている。
・退職金積立という観点からは効果がある。
・解約時期に退職金や大きな損失と相殺できるので税負担はないというのは、保険の効果を考える上では別次元の話。
・解約時期は契約時にしか設定できず、ピーク(戻りが高い時期)で解約できなければ、儲けどころか、場合によっては損する。
・万一の時の保険(保障)機能は会社にとって重要だが、必ずしも節税も儲けも保障もと考える必要はない。
 掛捨ての定期保険で、万一の時の保険(保障)機能は十分賄える。

このコーナーは、実際に受けた質問を一般的にアレンジしたものの他、想定問答を掲載しています。
作成時の税制などに基づいており、その後の税制改正などにより、取扱いが変わる場合がありますので、あくまで参考情報として、自己責任での運用、又は当事務所とご相談(有料)の上での運用をお願いいたします。